Works
Hさま(藤壺)
【藤壺/ふじつぼ】
結びとどめよ 夢うつつ
香る藤壺 花の化身
愛しさやまぬ ただひとつ
恋のむくろか 比翼の鳥か
-詩・書 槻岡果加梨-
【うたごころ】
まるで母の化身のように面影漂う藤壺よ。
愛する気持ちをどうしても想いとどめることのできない、
ただひとりのひとよ。
この想いは果たして…、
報われ硬い契りの二人となるであろうか、
それとも恋の抜け殻なのであろうか。
夢のような現実のようなこの縁を、
どうか結びとどめてくれはしないか。
<比翼(ひよく)の鳥> 雄、雌、それぞれ一目一翼で一体となって飛ぶという、幻想動物(想像上の鳥)。 男女の契りの深い事をたとえていう。
【エピソード】
「源氏物語」。
いつもその時々の「現代」に影響を与え、
1000年以上語り継がれてきたのは、
その物語の美しさと、
時代が移り行くとも変化しない、心の流れ・心情を映すことで、
人の心を捉えているからなのだと思うのでございます。
美しさの中に秘めれている「人間くささ」。
わたくしはこの「人間くささ」が、最も美しいのではないかと思うのです。
源氏物語にまつわる作品のご依頼をいただきました。
作品制作にあたって、制作されたいきっかけになった
「恋」のお話をお聞きしました。
女性から「藤壺」というお題をいただき、
そして必ず「藤壺」という文字をいれて、
「男性からみた藤壺」を書いて欲しいと、依頼されました。
源氏物語の解釈は諸説ありますが、
奔放に恋をしていたように受けられがちな光源氏は、
恋焦がれてもどうしても我がものにすることはできない、
初恋の義理母「藤壺」だけを求めていた、という説もあるようです。
依頼された女性とわたくしは互いに源氏物語が好きということがわかり、
詩もとても気に入っていただけました。
文字は、藤の花が満開に開くころ、
せつなげで可憐な藤壺という「女性」の、
「その姿」を「花」に見立てています。
作品を手にされてからのご依頼主の女性は、
お会いするたびにこう言ってくださるのです。
「わたしの宝物なの」。
いくつもの恋物語がある。
誰に知られることない、野道に咲く小さな花のような恋であっても
心には可憐な色彩を見せている。他の人にどう伝えようと、
どう伝わっていようと、その心に咲く花は、自分だけが知っている。
ご依頼の女性は、恐らく「未練」というものではない。
その時、心を彩ってくれたその紛れもない事実を、
こうして、心から出し「想いで」にしつつも、「自分という花」を大切にしている。